「自社の進むべき方向が分からない」「競合に差をつけたいが、何から手をつければいいのか…」
ビジネスの舵取りをする上で、このような悩みに直面したことはありませんか?変化の激しい現代市場で勝ち抜くためには、自社の現状を正確に把握し、未来に向けた的確な戦略を立てることが不可欠です。
その強力な羅針盤となるのが、「SWOT分析」と、そこから導き出される「戦略立案」です。
本記事では、経営者、マーケター、事業責任者、そしてこれからビジネスを学ぶすべての方に向けて、SWOT分析の基礎から、具体的な戦略に落とし込むまでの全プロセスを、図解を交えながら徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは以下の状態になっているはずです。
SWOT分析のやり方を身につける
- 自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を客観的に整理できる
- SWOT分析の結果を具体的な行動計画に繋げる方法がわかる
- 自信を持って自社の戦略を立案し、実行できる
少し長めですが、あなたのビジネスを次のステージへ導くための知恵が詰まっています。ぜひ最後までお付き合いください。
第1章:SWOT分析とは?すべての戦略の土台となる基本を徹底解説
戦略立案の第一歩は、現状を正しく知ることから始まります。SWOT分析は、そのための最も有名で強力なフレームワークの一つです。
SWOT分析の定義
SWOT分析とは、以下の4つの要素の頭文字を取った分析手法です。
- S = Strength (強み)
- W = Weakness (弱み)
- O = Opportunity (機会)
- T = Threat (脅威)
この4つの要素を、自社の内部環境(コントロール可能)と外部環境(コントロール困難)に分けて分析することで、自社の置かれている状況を立体的に把握することができます。
【図1:SWOT分析の4象限マトリクス】

なぜSWOT分析が重要なのか?
SWOT分析が多くの企業で活用されるのには、明確な理由があります。
- 現状の客観的な把握: 思い込みや希望的観測を排除し、事実に基づいて自社の立ち位置を確認できます。
- 課題の明確化: 「弱み」や「脅威」を特定することで、取り組むべき課題が明確になります。
- 新たな可能性の発見: 「強み」と「機会」を掛け合わせることで、これまで気づかなかった新たなビジネスチャンスを発見できます。
- 戦略立案の土台: 全ての要素を洗い出すことで、精度の高い戦略を立てるための強固な土台ができます。
SWOTの4要素を詳しく解説
それぞれの要素について、具体的にどのようなことを洗い出せば良いのか見ていきましょう。
内部環境(自社でコントロール可能)
これらは、自社の努力や工夫次第で変えることができる要因です。
- S (Strength): 強み目標達成の追い風となる、自社が持つ独自の長所や資産です。競合他社と比較して優れている点は何か?という視点で考えましょう。
- 例:
- 技術・製品: 特許技術、高い品質、独自のノウハウ
- ブランド: 高い知名度、顧客からの信頼、良好なブランドイメージ
- 人材・組織: 優秀な人材、モチベーションの高いチーム、独自の企業文化
- マーケティング: 強力な販売チャネル、多くの顧客リスト、高いWebマーケティング能力
- 財務: 豊富な自己資本、高い収益性
- 例:
- W (Weakness): 弱み目標達成の足かせとなる、自社が抱える短所や課題です。こちらも競合他社と比較して劣っている点は何か?という視点が重要です。
- 例:
- 技術・製品: 旧式の設備、製品ラインナップの少なさ
- ブランド: 知名度の低さ、ネガティブな評判
- 人材・組織: 人材不足、特定のスキルを持つ従業員の不在、非効率な組織体制
- マーケティング: 限定的な販売チャネル、弱い営業力、デジタル対応の遅れ
- 財務: 資金調達力の低さ、高いコスト構造
- 例:
外部環境(自社でコントロール困難)
これらは、市場や社会の変化など、自社の努力だけでは変えることが難しい要因です。
- O (Opportunity): 機会自社にとって追い風となる、外部の環境変化やトレンドです。この変化の波にどう乗るかを考えます。
- 例:
- 市場: 市場規模の拡大、新たな顧客セグメントの出現
- 社会: ライフスタイルの変化(例:健康志向、環境意識の高まり)、法改正
- 技術: 新技術の登場(例:AI、IoT)、DXの進展
- 経済: 景気の上昇、特定の業界への補助金
- 競合: 大手競合の撤退、競合のサービス品質低下
- 例:
- T (Threat): 脅威自社にとって向かい風となる、外部の環境変化や障害です。この変化にどう備えるか、どう回避するかを考えます。
- 例:
- 市場: 市場規模の縮小、顧客ニーズの多様化・変化
- 社会: 人口減少、規制強化
- 技術: 代替技術の登場、自社技術の陳腐化
- 経済: 景気の後退、原材料価格の高騰
- 競合: 新規参入者の増加、競合の低価格戦略、異業種からの参入
- 例:
SWOT分析の具体的な進め方(5ステップ)
- Step 1: 分析の目的を明確にする何のためにSWOT分析を行うのかを最初に決めます。「全社の経営戦略」「新製品のマーケティング戦略」「特定事業の立て直し」など、目的によって分析の範囲や深さが変わります。
- Step 2: 外部環境分析 (機会・脅威の洗い出し)自社を取り巻く環境を分析します。PEST分析(Politics:政治, Economy:経済, Society:社会, Technology:技術)やファイブフォース分析といったフレームワークを使うと、網羅的に要因を洗い出せます。
- Step 3: 内部環境分析 (強み・弱みの洗い出し)自社のリソースや能力を分析します。VRIO分析(Value:経済的価値, Rarity:希少性, Inimitability:模倣困難性, Organization:組織)やバリューチェーン分析といったフレームワークが役立ちます。
- Step 4: SWOTのマトリクスに整理する洗い出した各要素を、先ほどの【図1】の4象限に分類・整理します。この時、単なる思いつきではなく、客観的なデータや事実(顧客アンケートの結果、市場調査データ、財務諸表など)に基づいているかを確認しましょう。
- Step 5: 各要素を吟味・絞り込みたくさんの項目が挙がったら、特に重要度の高いもの、戦略に大きな影響を与えそうなものを絞り込みます。すべてに対応しようとすると、戦略がぼやけてしまいます。
第2章:【実践編】クロスSWOT分析で戦略を導き出す
SWOT分析は、要素を洗い出して終わりではありません。ここからが本番です。洗い出した4つの要素を掛け合わせる**「クロスSWOT分析(TOWSマトリクス)」**を行うことで、具体的な戦略の方向性が見えてきます。
クロスSWOT分析とは?
クロスSWOT分析は、内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を戦略的に結びつける思考法です。以下の4つの戦略オプションを導き出します。
【図2:クロスSWOT分析のマトリクス】

4つの戦略の方向性
それぞれの戦略について、具体例を交えながら見ていきましょう。(例:地方の老舗和菓子店)
① SO戦略 (強み × 機会): 積極化戦略
自社の**「強み」を最大限に活かし、市場の「機会」**を掴みに行く、最も理想的で攻撃的な戦略です。事業を成長させるための最優先事項となります。
- 考え方: 自社の武器を使って、最大のチャンスをものにするには?
- 例:
- 強み: 昔ながらの製法による高品質な餡子、地元での高い知名度
- 機会: インバウンド観光客の回復、SNSでの「和スイーツ」ブーム
- SO戦略:
- 高品質な餡子を使った「SNS映えする新商品(フルーツ大福など)」を開発し、インバウンド向けに多言語で情報発信する。
- 地元の知名度を活かし、観光客向けの「和菓子作り体験教室」を開催する。
② ST戦略 (強み × 脅威): 差別化戦略
市場の**「脅威」に対して、自社の「強み」**を活かして対抗し、影響を最小限に抑える戦略です。競合との差別化を図る上で重要になります。
- 考え方: 迫りくる脅威を、自社の強みでどう乗り越えるか?
- 例:
- 強み: 長年の常連客との強い信頼関係、添加物を使わない自然な味わい
- 脅威: 大手コンビニチェーンによる低価格な和菓子の販売強化
- ST戦略:
- 「コンビニにはない本物の味」を訴求し、ギフト需要や特別な日のための高級品としてのポジションを強化する。
- 常連客向けの限定商品や優待サービスで、顧客の囲い込み(ファン化)を徹底する。
③ WO戦略 (弱み × 機会): 改善・強化戦略
絶好の**「機会」を逃さないために、自社の「弱み」**を克服・補強する戦略です。弱点を改善することで、新たな成長の道が開けます。
- 考え方: チャンスを掴むために、自社の弱みをどう克服するか?
- 例:
- 弱み: ECサイトがない、オンラインでの発信力が弱い
- 機会: 全国的なお取り寄せグルメの需要拡大
- WO戦略:
- 外部の専門家の協力を得て、魅力的なECサイトを立ち上げる。
- SNS運用代行サービスを活用し、オンラインでの情報発信を強化して全国の潜在顧客にアプローチする。
④ WT戦略 (弱み × 脅威): 防衛・撤退戦略
自社の**「弱み」と外部の「脅威」**が重なる、最も危険な領域に対する戦略です。事業の縮小や撤退も視野に入れた、ダメージを最小限に抑えるための防衛的な選択肢となります。
- 考え方: 最悪の事態を避けるためには、どうすればいいか?
- 例:
- 弱み: 高齢の職人に頼っており、後継者がいない
- 脅威: 原材料(小豆など)の価格が世界的に高騰し続けている
- WT戦略:
- 採算の合わない商品の製造を中止し、利益率の高い主力商品に経営資源を集中させる。
- 事業承継やM&Aを検討し、技術と暖簾を守るための選択肢を探る。
クロスSWOT分析のポイント
- 具体的に記述する: 「売上を上げる」ではなく、「強みである〇〇を活かして、機会である△△市場に参入し、初年度売上××円を目指す」のように、誰が読んでもわかるように具体的に書きましょう。
- 選択と集中: すべての戦略を同時に実行するのは不可能です。SO戦略を優先しつつ、緊急性の高い脅威への対策(ST戦略、WT戦略)や、将来の成長に不可欠な弱点克服(WO戦略)など、優先順位をつけることが重要です。
第3章:戦略立案を成功させるための具体的手法
クロスSWOT分析で戦略の方向性が見えたら、それを実行可能な計画に落とし込んでいきます。絵に描いた餅で終わらせないための重要なステップです。
戦略目標を「SMART」に設定する
導き出した戦略を、具体的な目標に変換します。その際に役立つのが**「SMARTの法則」**です。
- S (Specific): 具体的に … 誰が読んでもわかる、具体的な内容か?
- M (Measurable): 測定可能に … 目標の達成度を数字で測れるか?
- A (Achievable): 達成可能に … 現実的に達成できる目標か?
- R (Relevant): 関連性 … 事業全体の目標と関連しているか?
- T (Time-bound): 期限を明確に … いつまでに達成するのか?
悪い例: ECサイトで売上を伸ばす。
良い例(SMART):
「ECサイト改善チームが、(S)オンライン限定の新商品を投入し、SNS広告と連携することで、(T)6ヶ月後までに (M) ECサイトの月間売上を現在の100万円から150万円に増やす。(A, R)」
戦略をアクションプランに分解する
SMARTな目標を立てたら、それを達成するための具体的な行動計画、つまりアクションプランに分解します。
「5W1H」を意識すると、計画がより明確になります。
- When (いつ): 実行期間、スケジュール
- Where (どこで): 対象市場、チャネル
- Who (誰が): 担当者、担当部署
- What (何を): 具体的なタスク、業務内容
- Why (なぜ): その行動の目的、理由
- How (どのように): 手法、手順
さらに、計画の進捗を測るための**KPI(重要業績評価指標)**を設定しましょう。KPIを定期的に観測することで、計画が順調に進んでいるか、軌道修正が必要かを判断できます。
(例:ECサイト売上向上プロジェクト)
- 目標: 6ヶ月後までにECサイトの月間売上を150万円にする。
- KPI:
- サイトへのアクセス数
- コンバージョン率(購入率)
- 顧客単価
- 新規顧客獲得数
- アクションプラン(一部):
- タスク1: 限定商品企画(担当: Aさん、期限: 1ヶ月後)
- タスク2: 商品ページの作成(担当: Bさん、期限: 2ヶ月後)
- タスク3: SNS広告の出稿(担当: Cさん、期限: 3ヶ月後~)
事業の成長戦略を考えるフレームワーク
アクションプランを考える上で、事業をどの方向に成長させるかを定義するフレームワークも役立ちます。代表的なものが「アンゾフの成長マトリクス」です。
これは、「製品(既存・新規)」と「市場(既存・新規)」の2軸で、4つの成長戦略の方向性を示します。
【図3:アンゾフの成長マトリクス】

- 市場浸透戦略: 既存の顧客に、既存の製品をさらに多く買ってもらう。(例:リピート促進、購入頻度向上)
- 新製品開発戦略: 既存の顧客に、新しい製品を提案する。(例:和菓子屋が洋菓子を開発)
- 新市場開拓戦略: 既存の製品を、新しい顧客層に販売する。(例:ECで全国に販売、海外展開)
- 多角化戦略: 新しい市場に、新しい製品で参入する。(最もリスクが高い)
クロスSWOT分析で出てきた戦略が、このマトリクスのどこに当てはまるかを考えることで、より戦略の解像度が高まります。
第4章:SWOT分析・戦略立案におけるよくある失敗と対策
最後に、多くの人が陥りがちな失敗例とその対策をご紹介します。これを避けるだけで、分析と戦略の質が格段に向上します。
失敗例1:分析が目的化してしまう
- 症状: SWOTのマトリクスを埋めること自体がゴールになり、満足してしまう。分析結果が戦略に全く活かされない。
- 対策: 分析を始める前に**「この分析で何を明らかにしたいのか」「どんな戦略を立てるためにやるのか」**という目的をチーム全員で共有しましょう。常に「So What?(だから何?)」を自問自答し、分析から戦略への繋がりを意識することが重要です。
失敗例2:主観的な意見ばかりで客観性がない
- 症状: 「うちは技術力が高いはずだ」「顧客はきっと満足しているだろう」といった、希望的観測や思い込みで各項目を埋めてしまう。
- 対策: すべての項目に**「なぜそう言えるのか?」という根拠**を求めましょう。顧客満足度調査、市場シェアのデータ、競合製品との性能比較表、財務データなど、客観的な事実やデータを基に分析を進めることが不可欠です。
失敗例3:強みと機会(弱みと脅威)を混同する
- 症状: 内部環境と外部環境の切り分けが曖昧になる。「Webサイトが充実している」のは機会ではなく強み。「少子化」は弱みではなく脅威です。
- 対策: **「自社でコントロールできるか?」**という問いで判断しましょう。Yesなら内部環境(強み・弱み)、Noなら外部環境(機会・脅威)です。この切り分けを間違えると、戦略の方向性も大きくズレてしまいます。
失敗例4:戦略が実行されない(絵に描いた餅)
- 症状: 素晴らしい戦略を立てたものの、誰も実行しない。いつの間にか忘れ去られてしまう。
- 対策: 第3章で解説した**「SMARTな目標設定」と「具体的なアクションプランへの分解」**が鍵となります。「誰が」「いつまでに」「何をやるのか」を明確にし、KPIを設定して定期的に進捗を確認する会議(週次、月次など)を設けましょう。戦略は実行されて初めて価値を持ちます。
まとめ:SWOT分析はビジネスを成長させる最強の武器である
本記事では、SWOT分析の基礎から、クロスSWOT分析による戦略の導出、そして実行可能なアクションプランへの落とし込みまでを、一気通貫で解説してきました。
【この記事の重要ポイント】
- SWOT分析: 「強み・弱み(内部環境)」と「機会・脅威(外部環境)」を整理し、現状を客観的に把握する。
- クロスSWOT分析: 4つの要素を掛け合わせ、「積極化(SO)」「差別化(ST)」「改善(WO)」「防衛(WT)」という4つの戦略の方向性を導き出す。
- 戦略立案と実行: 戦略を「SMART」な目標に変換し、具体的な「アクションプラン」に分解する。KPIを設定し、進捗を管理する。
SWOT分析と戦略立案は、一度やったら終わりではありません。市場環境や自社の状況は常に変化します。定期的に(例えば半年に一度、一年に一度)見直しを行い、戦略をアップデートしていくことが、持続的な成長には不可欠です。
今日学んだこの強力なフレームワークを、ぜひあなたのビジネスの羅針盤として活用してください。まずは自社のSWOTを紙に書き出すことから始めてみましょう。そこから、あなたの会社の輝かしい未来への道筋が、きっと見えてくるはずです。