創業以来、数百の起業家と向き合ってきた私が痛感するのは、「情熱だけでは会社は続かない」という現実です。どんなに素晴らしいビジネスアイデアも、資金という”酸素”がなければ息切れしてしまいます。でも大丈夫、複雑に思える資金計画も、ステップを踏めば誰でも立てられるんです。今回は、私が見てきた成功事例と失敗例から学んだ、実践的な資金計画の立て方をお伝えします。
資金計画とは?〜単なる「数字合わせ」ではない理由〜
資金計画とは、単なる「お金の管理表」ではありません。これは、会社の未来を描く設計図です。私がよく相談を受けるお客様の中には「売上さえ立てば大丈夫」と考える方が多いのですが、実際に倒産する企業の多くは黒字なのに資金ショートで息絶えています。
資金計画と資金繰り計画の違いも押さえておきましょう。私は初めて創業するお客様に「資金計画は遠くの山を目指す地図、資金繰り計画は毎日の歩数計」と説明しています。
- 資金計画:事業全体の資金の流れを示す中長期的な計画
- 資金繰り計画:日々の現金の出入りを管理する短期的な計画
ある飲食店を開業したお客様は「毎月黒字だから安心」と思っていましたが、実は固定費の支払いと売上入金のタイミングにずれがあり、ある月に突然資金ショートに。この経験から、私は「黒字倒産」が現実の脅威だと実感しました。資金計画を立てることで、このような事態を未然に防ぐことができるのです。
資金計画の種類〜時間軸で考える資金の流れ〜
私が特に強調したいのは、時間軸で資金計画を考えることの重要性です。計画を段階的に立てることで、先の見通しが立ちやすくなります。
短期資金計画(〜1年)
これは最も身近で確実性の高い計画です。私がコンサルティングした飲食店オーナーは、最初の半年間は開業費用の回収ができないことを覚悟し、その期間をしのぐための資金を事前に確保していました。その結果、焦らずに顧客獲得に集中でき、長期的な成功につながりました。
短期計画では、毎月の家賃、水道光熱費、従業員給与など、固定費を漏れなく洗い出すことが重要です。特に創業時は予想外の出費が多いので、余裕を持った計画を立てましょう。
中期資金計画(1年〜3年)
この期間は事業が軌道に乗り始め、成長のための投資を考える時期です。あるIT企業のお客様は、2年目に入る前から中期計画を立て、開発チームの増強時期と必要資金を明確化。その結果、タイミングよく金融機関から融資を受けることができました。
中期計画では「どのタイミングで何に投資するか」という優先順位付けが重要になります。すべてを一度にやろうとすると資金が分散して効果が出にくくなるからです。
長期資金計画(3年以上)
私の支援先で最も成長したのは、創業当初から5年後、10年後のビジョンを描き、そこに向けた長期資金計画を立てていた会社です。彼らは「いつまでに株式上場するか」という明確な目標を持ち、そのために必要な資金調達ステップを逆算して計画していました。
長期計画は柔軟性を持たせることが大切です。市場環境は変化するものですから、定期的に見直す習慣をつけましょう。
資金計画の立て方:実践編
では、具体的に資金計画を立てるステップを見ていきましょう。私が多くの起業家と一緒に作成してきた実践的な方法です。
ステップ1:目的を明確にする
「なぜお金が必要なのか」という目的を明確にすることが最初のステップです。私が支援したある飲食店オーナーは、「商品開発」「店舗改装」「広告宣伝」と資金の使途を明確にしたことで、優先順位がはっきりし、無駄な出費を抑えることができました。
目的が曖昧だと「使えるお金があるから使う」という発想になりがちです。「この資金で何をして、どんな成果を出すのか」を明確にすることが重要です。
ステップ2:必要な資金を洗い出す
必要な資金を種類別に洗い出しましょう。私がよく使うのは以下の区分です:
- 初期投資資金:店舗改装、機械設備、備品など
- 運転資金:在庫、仕入れ、人件費、家賃など
- 予備資金:想定外の出費に備えた資金(全体の20%程度)
特に「予備資金」は見落としがちですが、私の経験では、ほぼすべての創業者が想定以上の資金を必要としています。余裕を持った計画が大切です。
ステップ3:収支計画を立てる
ここが最も重要なステップです。売上と支出を月別に予測し、資金の増減を把握します。
私がいつもアドバイスするのは「売上は控えめに、経費は多めに」という原則です。特に創業初期は売上が思うように立たないことが多いので、現実的な数字で計画することが大切です。IT企業のあるお客様は、最初の半年間は売上ゼロと想定して運転資金を確保していました。その結果、焦らずに製品開発に集中でき、質の高いサービスを生み出せました。
ステップ4:資金調達方法を検討する
必要資金が明確になったら、調達方法を検討します。一般的な方法には以下があります:
- 自己資金:最も確実ですが、限界があります
- 融資:日本政策金融公庫や銀行からの借入
- 出資:投資家やVCからの資金調達
- 補助金・助成金:返済不要の資金
私の経験では、創業時は日本政策金融公庫の「新創業融資制度」が使いやすいです。自己資金が少なくても創業計画書がしっかりしていれば融資を受けられる可能性が高いからです。実際、私のクライアントの約7割がこの制度を利用しています。
詳しくは日本政策金融公庫の公式サイトをご覧ください。
ステップ5:資金繰り表を作成する
資金繰り表は、月ごとの資金の流れを可視化するツールです。エクセルやクラウド会計ソフトを使って作成するのが一般的です。
私がよく利用するのはfreeeの資金繰り表テンプレートです。直感的に使いやすく、入力項目も網羅的です。
資金繰り表作成のポイントは、入金と出金のタイミングを正確に把握することです。売上が立っても入金は翌月ということも珍しくありません。そのズレが資金ショートの原因になるのです。
ステップ6:計画の見直しと改善
資金計画は一度作って終わりではありません。定期的に見直し、実績と比較しながら改善していくことが大切です。
私のクライアントで成功した方々に共通するのは、毎月末に計画と実績を比較し、差異の原因を分析する習慣を持っていることです。この習慣が「資金感覚」を養い、経営者としての直感を鍛えます。
資金計画を立てる際の注意点・成功のポイント
私が多くの起業家を支援してきた経験から、資金計画成功のための重要なポイントをお伝えします。
ポイント1:現実的な数字設定を心がける
理想的な数字ではなく、現実的な数字で計画を立てることが重要です。私が出会った多くの創業者は、売上を楽観的に見積もりがちでした。ある小売店オーナーは初年度の売上を市場平均の2倍で計画していましたが、私は「平均の70%で計算し直してみましょう」とアドバイス。結果的に、その現実的な計画のおかげで資金ショートを回避できました。
特に創業初期は「売上は予想の半分、経費は予想の1.5倍」と考えておくと安全です。厳しい見方かもしれませんが、これが「守りの資金計画」として重要なのです。
ポイント2:小さな支出も見逃さない
大きな支出だけでなく、小さな経費も積み重なれば大きな金額になります。私が支援したあるサービス業の経営者は、創業時に事務用品や交通費などの「小さな支出」を月5万円と見積もっていましたが、実際には月15万円以上かかっていました。
細かい経費も含めて詳細に洗い出すことで、資金計画の精度が大幅に向上します。特に創業時は「思いがけない出費」が多いので注意が必要です。
ポイント3:長期的な視点を持つ
短期的な資金繰りだけでなく、3年、5年先を見据えた計画を立てることが重要です。成長のためには設備投資や人材採用など、大きな資金が必要になる時期があります。その時に慌てないよう、事前に準備しておくことが大切です。
私が支援したIT企業は、創業時から3年後のオフィス移転と人員拡大を見越して資金計画を立てていました。そのおかげで、成長期に入ったときにスムーズに事業拡大できたのです。
ポイント4:専門家に相談する
資金計画は専門知識が必要な分野です。税理士や中小企業診断士などの専門家に相談することで、より精度の高い計画を立てることができます。
私自身も創業時には税理士に相談し、資金計画の立て方から税務上の注意点まで多くのアドバイスをもらいました。その経験が今の私のコンサルティングに生きています。
日本税理士会連合会や中小企業庁の経営相談窓口などで相談先を探すことができます。
資金調達の実践ポイント
資金計画が固まったら、次は実際の資金調達です。私が支援してきた起業家の実例をもとに、それぞれの調達方法の特徴とポイントをお伝えします。
自己資金:確実だが限界がある
ご自身の貯蓄やご家族からの支援など、自己資金は最も確実な資金源です。私が出会った成功している経営者は、可能な限り自己資金を用意し、その上で外部資金を調達していました。
自己資金のメリットは、返済義務がなく使途の自由度が高いことです。特に創業初期の試行錯誤段階では、この自由度が大きな強みになります。
ただし、「全額自己資金」にこだわりすぎると事業規模が制限されることもあります。私のあるクライアントは、最初「借金はしたくない」と自己資金だけでスタートしましたが、事業拡大のタイミングで融資を活用したことで大きく成長できました。
融資:返済計画が鍵
創業時に最も活用されるのが融資です。特に日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、自己資金が少なくても利用しやすい制度です。
私がサポートしたあるWeb制作会社は、創業資金300万円のうち自己資金が50万円しかありませんでした。しかし、綿密な事業計画書と資金計画を作成して日本政策金融公庫に申請し、250万円の融資を受けることができました。
融資を受ける際のポイントは以下の3つです:
- 返済計画を具体的に立てる:無理のない返済計画を立て、融資担当者に説明できるようにしておく
- 担保・保証人の有無を確認:制度によっては無担保・無保証人での融資も可能
- 資金使途を明確にする:何にいくら使うのかを明確にすることで融資の可能性が高まる
出資:成長資金として
融資よりも大きな資金を調達したい場合は、出資という選択肢もあります。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから資金を得る方法です。
私がサポートしたテック系スタートアップは、試作品開発後に3,000万円の資金調達に成功しました。出資を受ける際に重要だったのは「なぜこの事業に投資すべきか」を明確に説明できる資料を用意することでした。
出資を受ける際は、単にお金をもらうだけでなく、投資家の経験やネットワークも活用できるメリットがあります。ただし、会社の一部の所有権を渡すことになるので、そのバランスを考慮する必要があります。
補助金・助成金:返済不要の資金
国や自治体、各種団体が提供する補助金・助成金も、重要な資金源です。返済不要なので、うまく活用できれば大きなメリットになります。
私のクライアントで、「小規模事業者持続化補助金」を活用して50万円の補助金を獲得した飲食店オーナーがいます。この資金でメニュー開発と店舗改装を行い、売上を30%アップさせることができました。
補助金・助成金の獲得ポイントは、申請書の書き方にあります。「なぜこの事業に補助金を出すべきか」「どんな社会的意義があるのか」を明確に説明することが重要です。
中小企業庁の補助金総合案内サイト「ミラサポplus」で、各種補助金の情報を調べることができます。
実際の創業者から学ぶ成功事例
私が支援してきた起業家の中から、特に印象的な成功事例を紹介します。
事例1:飲食店の事例
東京でカフェを開業したAさんは、必要資金800万円に対して自己資金は200万円しかありませんでした。そこで、以下のように資金調達を組み立てました:
- 自己資金:200万円
- 日本政策金融公庫融資:500万円
- クラウドファンディング:100万円
特に注目すべきは、クラウドファンディングを単なる資金調達ではなく、プレマーケティングとして活用したことです。実際に100万円の資金調達に成功しただけでなく、オープン前から常連客を獲得できました。
Aさんの成功ポイントは「各資金調達方法の特性を理解し、最適な組み合わせを考えた」ことにあります。
事例2:IT企業の事例
クラウドサービスを開発したBさんは、最初から大きな資金が必要でした。そこで、段階的な資金調達計画を立てました:
- 創業期(自己資金+知人からの借入):300万円
- 開発期(公的融資):1,000万円
- 成長期(ベンチャーキャピタル出資):5,000万円
Bさんが賢かったのは、各段階で必要最小限の資金だけを調達したことです。多くの創業者は「一度にたくさんのお金を集めたい」と考えがちですが、段階的に実績を作りながら調達することで、より有利な条件で資金を集めることができました。
資金繰り計画の重要性
資金計画の中でも特に重要なのが「資金繰り計画」です。これは日々の現金の出入りを管理するための計画で、資金ショートを防ぐ最後の砦となります。
資金繰り表の作り方
資金繰り表の基本的な構造は上の図の通りです。ポイントは以下の3つです:
- 入金と出金のタイミングを正確に把握する:売上が立っても、実際に入金されるのは翌月ということも多いです。特に法人相手のビジネスでは、請求から入金まで2〜3ヶ月かかることも珍しくありません。
- 固定費と変動費を分けて管理する:毎月必ず発生する固定費(家賃、給与など)と、売上に応じて変動する変動費(仕入れなど)を分けて管理することで、「最低限必要な資金」が見えてきます。
- 余裕を持たせる:想定外の出費や入金遅延に備えて、常に一定の「資金バッファ」を持っておくことが重要です。私は通常、月間固定費の3倍程度のバッファをお勧めしています。
私が支援したある小売店では、売上は順調だったものの、仕入れの支払いが先行し、入金が後になるというサイクルで常に資金繰りが厳しい状況でした。そこで資金繰り表を作成し、仕入れのタイミングを調整したことで、無理なく運営できるようになりました。
資金繰り管理のためのツール
資金繰り表を作成・管理するためのツールとしては、以下がおすすめです:
- エクセルテンプレート:初心者でも使いやすいシンプルなテンプレートが多数公開されています。中小企業庁のサイトからダウンロードできます。
- クラウド会計ソフト:freeeやMFクラウドなどのクラウド会計ソフトには、資金繰り表機能が搭載されています。銀行口座やクレジットカードと連携させれば、自動で数字が更新される便利さがあります。
- 専用アプリ:スマートフォンで使える資金繰り管理アプリもあります。MoneyTreeやZaimなどは個人事業主にも使いやすいでしょう。
私のクライアントの中では、エクセルで始めてクラウド会計ソフトに移行するケースが多いです。慣れないうちはシンプルなエクセルでも十分効果があります。大切なのは継続して記録することです。
成功する資金計画のポイント
最後に、私が数百の起業家と関わってきた経験から得た、資金計画成功のポイントをまとめます。
- 現実的な数字で計画を立てる:特に売上予測は控えめに、経費は多めに見積もる
- 資金の種類と時間軸を分けて考える:初期投資資金、運転資金、成長資金など目的に応じた計画を立てる
- 資金調達方法を複数組み合わせる:自己資金、融資、出資、補助金など、状況に応じて最適な組み合わせを考える
- 資金繰り表で日々の現金管理をする:月次ではなく、日次で資金の流れを把握する習慣をつける
- 定期的に計画を見直す:少なくとも四半期に一度は計画と実績を比較し、必要に応じて計画を修正する
私が出会った成功している起業家に共通するのは、「数字に強い」ことよりも「数字に向き合う習慣がある」ことです。最初は完璧でなくても、継続的に資金計画を立て、実績と比較し、改善していくサイクルが重要なのです。
あなたの事業が資金面での不安なく、本来の強みを生かして成長していくことを願っています。「お金がなくて困った」と言う前に、今日から資金計画を立ててみませんか?きっと、事業の見通しが変わるはずです。
何か具体的な質問や相談があれば、いつでもお気軽にご連絡ください。あなたの挑戦を応援しています!